スタートアップから大企業まで、ほとんどの会社では「代表取締役」と「社長」が同一人物だ。よっぽどの大手じゃないとこの二つの肩書きを分けることはない。
でもHatchでは実は私が「社長」で、共同創業者のオマールが「代表取締役」。
なぜ我々は「最高責任者」の肩書きを分けてみたのか?
背景
まず、会社を設立したことのある人ならもう知っていると思うが、会社設立に法律上で唯一必要されている肩書きは「代表取締役」のみだ。
国にとっては「代表取締役」が会社の責任者であり、「社長」という肩書は法務局に何の意味を持たない。「社長」も「CEO」もただの名称。
いわゆるニックネームにすぎない。
ではなぜわざわざ「社長」のポジションを作ったのか?
Google Trendsでキーワード「代表取締役」・「社長」・「CEO」を比較すると、一目で分かる。
ダントツで「社長」が人気なのだ。
これを言い換えると、一般的には「最高責任者」=「社長」という認識が非常に強いと捉えられる。
(ちなみに念のため、日本の人気ユーチューバー「はじめ社長」が「社長」のキーワードに貢献しすぎてないかをチェック。
結果的にほとんど貢献度していない。)
一般的には「最高責任者」=「社長」という認識が非常に強い。むしろ一般市民は「代表取締役」がどういうポジションなのかいまいち分からない人も少なくはないと思う。
でもそれはあくまでも一般市民の認識。会社を相手になると「代表取締役」の方が圧倒的に重要視される。
要するに「社長」はBtoC向けに利く肩書きであり、「代表取締役」はBtoB向けに利く肩書きである。
HatchはBtoC向けのアプリ。
つまり一般市民・メディアの認識上、誰かが「社長」という肩書きを持つことが大事になってくる。
だが、マーケティングで関わる取引先の会社も多いため、「代表取締役」の肩書きももちろん大事。
そこで、色んな会社とマーケティング関連で交渉・契約する立場であるオマールは「代表取締役」にして、メディア・ユーザーに対しての”表の顔”である私は「社長」になることにした。
このように「最高責任者」のラベルを持った人が2名いることには色々メリットがある。
まず、ビジネスやメディアは、「最高責任者」じゃない限り話してくれない相手が多い。逆を返せば、「最高責任者」という肩書きは交渉の際に役立つ最強の装備カード。
取引先(BtoB)にとってはオマールが「最高責任者」だから話してくれる。そしてメディア(BtoC)にとっては私が「最高責任者」だから話してくれる。それに加え我々は話す相手によって、より効果的な方の「最高責任者」を選べるし、「最高責任者」が同じ時間に2箇所に現れることだってできる。
そしてもう一つメリットがある。
表見代表取締役
「代表取締役」じゃないのに会社の承認の上で「社長」を名乗って取引を行うと、非常に面白いことが起こる。
以下 Wikipedia からの引用:
表見(ひょうけん)代表取締役の制度とは、代表取締役でない取締役に、社長、副社長その他代表権を持つと誤解されるような肩書を与えた場合、その取締役の行為は、代表権がないことを知らなかった第三者(善意の第三者)に対しては代表権があったものとして扱われ、会社は責任を負うことになるというものである(354条、旧商法262条)。これにより、相手に会社を代表する権限があると信じて取引をした者が保護され、取引の安全が図られる(権利外観理論)。
つまり表見代表取締役とは、私が「社長」を名乗って第三者と取引を行うと、その取引に置いて私は「代表取締役」と事実上同じ法的権限を持つことになる。あきらかに第三者を守るために作られた制度だが、逆を返せば、会社側にもメリットもある制度である。
だが、もちろんメリットだけではない。リスクもある。
社長・代表取締役の肩書きを分けるリスク
代表取締役は会社の法律上支配者だ。
以下がWikipediaから引用した、代表取締役の事実上権限だ:
代表取締役は、意思決定機関である株主総会や取締役会の決議に基づき、単独で会社を代表して契約等の行為を行うことができる。それとともに、代表取締役は会社の業務を執行する。日常業務については取締役会からその決定権限が委譲されていると考えられており、自ら決定も行い、執行する。
一番の注目点は、代表取締役は単独で会社として契約を結べることができるということだ。
もし共同創業者同士で事業方針の意見が分かれた場合、代表取締役は(新しい代表取締役の選定まで)事業を自分の向かいたい方針に無理矢理持っていける。だからこそこの権限を渡すのは上記の承知の上に分けた方がいい。
結論
肩書きも最初から有効活用すべき。
分けるのは多少リスクはあるが、共同創業者との信頼関係が強ければ、最高責任者」装備カードを2枚に増やしてみる価値はあると思う。
正直、弁護士とか何人かの経営者はこの記事をみて、苦笑いしているのを想像できる。でもリサーチはしっかりしたし、少し危なそうでも他の人がやっていないことを試してみることは大事。そういうところから思いにも寄らぬ他社との差別化が生まれる。